【ユナイテッド・シネマ】大事なのは生の声。映画館支配人に聞く劇場の裏側

当コラムは、グループ社員の皆様に“ローソングループで働く仲間の仕事への想いを知ってもらうことを目的に、ローソングループで働く8人の社員にスポットをあてた企画です。普段顔を合わせることはない、けれど同じグループの仲間たち。彼ら、彼女たちは、普段どのような仕事をどんな想いで取り組んでいるのでしょうか。

今回スポットを当てるのは、全国42箇所に映画館を展開するユナイテッド・シネマです。小さなお子さんをもつ親御さん達が映画館で映画を楽しめるよう企画された「抱っこdeシネマ」や、映画を五感でたのしめる4DXを取り入れるなど、様々なチャレンジを続けています。

お話を聞いたのは、ユナイテッド・シネマとしまえん支配人の藤崎幸太郎(ふじさき こうたろう)さん。小学生の頃から映画に魅了され、学生時代のアルバイトをいれると約17年ユナイテッド・シネマに所属しているそうです。今回は、「映画館の支配人」のお仕事内容をお聞きしました。

ユナイテッド・シネマ株式会社 ユナイテッド・シネマとしまえん 支配人 
藤崎幸太郎(ふじさき こうたろう)

大学時代に3年間、ユナイテッド・シネマ福岡(福岡)でアルバイトを経験。その後2007年に社員としてユナイテッド・シネマ株式会社に入社。2014年にシネプレックス小倉(福岡)で支配人を経験した後、2016年より、ユナイテッド・シネマとしまえん(東京)にて支配人を務める。

本当は野球選手になりたかったんです

ー藤崎支配人は学生時代からユナイテッド・シネマで働かれていると聞きました。子供の頃から映画がお好きだったんですか?

両親が映画好きで、映画館に連れて行ってくれたりと映画と触れる機会は多かったのですが、ハマるきっかけとなったのは小学校高学年のときに地元福岡に複合型映画館(一つの施設の中に複数のスクリーンをもつ映画館)ができたことです。初めて子供だけで映画を見に行ったのですが、その時のワクワク感や異世界に行ったような高揚感が忘れられず皆で何度も行きました。もちろんお金がかかることなので気軽にはいけませんでしたが、予告をみて「次は絶対あれ観たいよな!」なんて話したり、金曜ロードショーの話をしたり。小学生なりに映画にハマっていました。

ーでは、子供の時から映画に携わる仕事をしようと。

実はずっとプロ野球選手を目指していたので「大きくなったら映画館で働きたい」とは考えていませんでした。
高校3年のときに野球とは違う道を考えるようになり、ひとまず大学に進学。
まずは好きな仕事をしてみようとユナイテッド・シネマにアルバイトの応募をしました。これが”映画館キャリア”のスタートです。

ー見る側から提供する側へ。実際に映画館で働いてみていかがでしたか。

スタッフしか見ることができない映画館の裏側に入れたり、一般公開されていない情報を一足先に知れるのはやはり嬉しかったですね。
中でも一番興奮したのは(アルバイト時代に)、映画館に置いてある販促用の模型を組み立てたときです。自分が作った模型をみてお客さまが喜んでいる姿を見られたときは感動しました。

ーアルバイトから正社員へなったのには、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

当時の支配人に声をかけてもらったのがきっかけです。正直アルバイトは楽しかったのですが、この先も映画業界で働くことまでは考えていなかったので悩みました。
でも、プロ野球選手を目指していたときもそうですが、「好きなことで、人に夢を与えられる仕事をしたい」と考えていたので映画館ならそれができるかなと。
あとは、お世話になっていた支配人が僕を信頼して声をかけてくれたのが嬉しくて、その期待に応えたいと思い入社を決意しました。

大事なのは、データよりも生の声を信じること

ー今では支配人に。現在はどのようなお仕事をされていますか。

劇場運営に関わること全てですね。具体的には、採用やマネジメントはもちろん、映画の劇場宣伝展開を考えたり上映スケジュール作成などをしています。

ー上映スケジュールは、本社ではなく支配人が決めるんですね!

土地柄や客層によって人気の映画は違うので、基本的には劇場ごとに上映スケジュールは違います。
でもユナイテッド・シネマとしまえんに関しては僕一人で決めるわけではなく、他の社員メンバーやスタッフと話し合って決めることがほとんどです。

僕たちは映画評論家でなければ、コンピューターでもないので、一人で決めるとどうしても個人の主観が入ってしまうんですよね。
だからこそ年齢層・性別・趣味などが様々なスタッフをいれて定期的に意見交換をしています。

もちろんデータもチェックしますが、映画が好きで、かつ普段からお客様に近い存在であるスタッフの意見が一番信頼できるんですよ。
なぜなら上映スケジュールは、まだ公開されていない映画の未来(ヒットするかしないか)を想定して組むため、データだけでは読み取れきれず、知識と共に感覚が求められることもあるからです。

※撮影時のみ特別にマスクを外して撮影しております

例えば、大ヒット作「君の名は。」。
通常、メジャーになる作品は夏休みに合わせて公開されることが多いのですが、「君の名は。」の公開は夏休み最後の週末だったんです。つまり、データだけで見るとそこまで期待値は高くなく、上映回数を用意することはありませんでした。
しかし、先行上映を見たスタッフの評価はかなり高く「絶対にヒットする」と皆が口を揃えて言うのです。そこで急遽「君の名は。」の上映スクリーンを大きくし、上映回数も増やすことにしました。結果、大ヒット作になり、上映回数を多数用意したおかげでユナイテッド・シネマとしまえんでも多くのお客様にお楽しみいただくことができました。データだけでしたら、ユナイテッド・シネマとしまえんでは「君の名は。」の上映が少なかったり、スクリーンが小さかったりと、お客様をがっかりさせてしまっていたかもしれません。

この様にデータだけでは判断できない生の情報も活かし、調整して上映スケジュールを組んでいます。

ーなるほど。生の情報をとりいれるために、工夫していることはありますか。

積極的にレジに立つことですね。支配人業務をしながらも、ポップコーンやチケットを売っています。
先程の話にも通じますが、お客さまの気持ちや行動ってデータだけでは絶対読み取れないんです。

例えば、タピオカのミルクティー味が人気ということはデータを見ればすぐにわかります。
でもお客さまは、本当にミルクティー味が飲みたくて買っていただいているのか。他の味が冴えないから消去法でミルクティー味が選ばれているのか?までは、データだけではわからないですよね。

しかし、実際に接客することで、声のトーン、表情、目線など、数字以上のことが見えてきます。体感するとデータが腑に落ちるんですよね。
これが何より大事で、それに合わせてポップを変えたり動線を変えたり工夫しています。

もうひとつ、現場に立つ理由はスタッフとの距離を縮めるためでもあります。
支配人というとどうしても肩書的にとっつきにくいじゃないですか。だからこそ一緒にレジに立ちコミュニケーションをとることで何でも話しやすい関係性をつくったり、一人ひとりの表情をみてモチベーションが下がっていないか、元気に働けているかをチェックしています。

僕にとって映画館は家で、スタッフは家族のような存在なので、この場所でしっかりみんなが楽しく働ける環境を作り上げていくことも支配人としての仕事のひとつだと思っています。


赤ちゃん連れでも気にせず楽しめる上映会

ーユナイテッド・シネマでは、お子さまが映画を楽しむための企画があるとお聞きしました。

さまざまな企画がありますが、代表的なのは「抱っこdeシネマ」です。
“頑張るママ&パパに、もっと映画を”をコンセプトに、赤ちゃん連れのお父さんお母さんに映画館で作品を楽しんでもらうための企画です。

赤ちゃんが映画館の暗闇や大音量にびっくりしないよう、通常よりも劇場内は明るくし音も少し小さめに。突然泣き出してしまっても大丈夫、周りはみんな子育て中のお父さん・お母さんばかりなので、通常の上映時のように気を遣うこともありません。

子育て中はどうしても行く場所が制限されてしまいますし、周りにも赤ちゃんにも気を遣うため、リラックスしてエンタメを楽しむことは難しいものです。でも本当にそれでいいのかなと。エンタメだからこそ、すべての人に寄り添うべきなのではと考え、ユナイテッド・シネマでは、2017年にはじめて「抱っこdeシネマ」を実施しました。

結果は大成功でした。年間約2,000人以上のお父さん、お母さんが来場してくださり、SNSにはお子さんとの2ショット写真と一緒に喜びの声が多数投稿されていました!

実は今年の夏、思い出に残る出来事があったんです。
アンパンマンの上映をしていた時に、お客様から声をかけられました。その方はなんと、2年前の「抱っこdeシネマ」に来てくれたお客様だったんです。

当時は、お子さまが生まれたばかりだったので、映画館でお父さん・お母さんが大好きな「アベンジャーズ」を観ることを諦めていたのですが、「抱っこdeシネマ」があったから映画館で鑑賞できたことや、今回初めて当時赤ちゃんだったお子さまが自分で観たいと言った映画(アンパンマン)で鑑賞デビューをすることなど、様々なお話をして下さいました。

こんなに嬉しいことってないなと思いました…!

赤ちゃんのときに一緒に映画をみたことが親御さんの思い出になり、大きくなったらアンパンマンで映画デビュー。もしかしたらその子が学生になる頃には初デートで来てくれるかも知れないし、映画好きになってここでバイトをしてくれるかもしれない。

映画館として家族の思い出に関われることや、人生に寄り添えることはとても感慨深いですし、同時に映画館としてのさらなる可能性を感じました。

▶赤ちゃん連れでも映画を楽しめる「抱っこdeシネマ」の詳細はこちらから
https://www.unitedcinemas.jp/dakko_de_cinema/

映画館をここに存続させることこそが使命です

ー藤崎支配人も、子供の頃から映画ファンだったんですよね。

はい、よく親や友人と映画館に行ったり、金曜ロードショーも欠かさず観ていました。
たくさん作品を観てきましたが、中でも一番印象に残っている映画が「LEON(レオン)」です。
当時、作品を通して初めて海外の風景や、英語(日本語以外の言語)を話す人を観ました。
子供ながらに「うわ〜かっこいい!こんな世界があるのか。」と興奮したのを今でも覚えています。

映画を観ることは多様な文化に触れられる機会なので、今の子供達にも映画を通して様々な世界を知り、色々なことを感じてもらえたらなと。そして、欲を言えば家ではなくできれば、映画館で観てほしいですね。テレビも、配信サービスも手軽で、もちろんいいものなのですが、映画館で見る迫力や臨場感、没入感にはかないませんから。映画館で映画を観る、その経験から生まれるものを大切にしてほしいなと思います。

ーそのために、今後どのような映画館であるべきだと考えますか。

ここに、映画館としてあり続けること。それにつきるなと思います。

もちろん「抱っこdeシネマ」などの企画も大切です。でもコロナ禍でお客様をお呼びできない時期を経験したからこそ感じるのは、ここにあり続けることで文化を絶やさないことが一番の使命ということ。みなさんがいつでもふらっと寄れる場所として、何年、何十年とこの場所に「ユナイテッド・シネマとしまえん」として、あり続けることを目指していきたいです。


地域に愛されつづける圧倒的な存在の背中を追いかけて。

ー地域に根付き愛される映画館をめざしたいと感じ始めたきっかけはありますか。

それは、「水と緑の遊園地 としまえん」(以下遊園地としまえん)の閉園時の姿に魅了されたことです。遊園地としまえんとユナイテッド・シネマとしまえんは隣に位置し、私たちはオープン以来16年間、この地で地域の皆様に愛され続けている大先輩として遊園地としまえんの背中をずっと追いかけてきました。

その中での閉園発表。1926年より94年間営業を続けられたこと、そしてこの地を共に盛り上げてきた盟友(おこがましいですが、ここではあえてそう言わせてください)への敬意と感謝の気持ちを込めてなにかできないかと企画したのが、2019年5月に公開された映画「としまえん」の再上映でした。

ー具体的にどのような取り組みだったのでしょうか。

閉園に向けてのカウントダウン上映と銘打ち、11日間の限定上映を行いました。
ただ再上映するのではなく、お祭りとして最後を盛り上げられたらと思い、特別価格のチケットや、特典として先着50名様に台本ノートのプレゼントなど、さまざまな企画をご用意しました。

その中でも特に好評だったのが「上映のタイミング」です。
遊園地としまえんでは、毎日閉園間際の20時になると花火が上がるのですが、その時間から逆算して映画の上映開始時間を設定しました。上映が終わりお客様が外にでるタイミングで花火が上がることで、今日という日がより強く思い出に残ればいいなと企画したところ予想以上に反響が高く、連日SNSには映画館から見える花火の写真と合わせて遊園地としまえんへの想いが多く投稿されていました。

上映には老若男女多くの方がご来場くださり、さらに繰り返し見に来られる方も多く、劇場は毎回満席に。皆さんの遊園地としまえんへの愛を感じるのと同時に、私たちユナイテッド・シネマとしまえんも地域の皆さまに親しみを感じていただける場所であり続けることへの意義を強く感じました。

コロナ禍で感じた地域との絆と、使命感

ーコロナ禍により、2020年3月より全国各地の映画館休業が余儀なくされました。当時の状況はいかがでしたか。

ユナイテッド・シネマとしまえんも例に漏れず2020年、2021年と休館時期がありました。
安全を鑑みて社員もスタッフも自宅待機してもらいました。感染状況から再開への目処も立たず、公開予定だった作品は軒並み延期になり、もし再開できたとしても上映する作品がないなど、先の見えない日々にとにかく今やるべきことはなんだ、できることはないかと考え続ける日々でした。

それでも再開に向けた、従業員の皆の協力やジブリ映画の過去作品の上映など再開の目処は経ちましたが、壁を乗り越えたらまた壁があるような状況と言いますか、再開決定後は別の不安要素が出てきたのです。

それは、このタイミングでの上映再開をお客様はどう感じるのか、おうち時間で知った”映画をネット配信で見られる手軽さ”から映画館で見るということへの特別感や期待が薄れているのではないか、ということ….。しかし、嬉しさと不安に襲われながら迎えた営業再開の初日、目の前に広がっていたのは、開館前から並んでくださっている地元の皆様の行列でした。

「大変な時に再開してくれてありがとう」
「やっぱ映画館じゃないと迫力が物足りなくて」
「閉館しなくてよかったよ〜!」

多くの方が笑顔で声をかけてくださり、安堵と喜びで胸がいっぱいになりました。あの日の光景は一生忘れられないと思います。

同時に、待っていてくださった皆様を裏切ることのないように、感染対策をより一層徹底することで、安心して映画をお楽しみいただける場所であり続けることを改めて決意しました。

その上で、もうひとつ考えたいのは、人と人の距離感です。
コロナ禍により、映画館との間に心理的な距離を感じる方もいらっしゃると思います。
だからこそ映画館として皆様に寄り添う為に出来る事を模索しているところです。

ーコロナ禍で生まれた新しい企画があると聞きました。

「みんなdeだんらんシネマ」です。通常の上映では、現在ソーシャルディスタンスを保つために一席ずつ間隔を空けていますが、「みんなdeだんらんシネマ」適用の上映時は、他グループとは間隔をとりながら一緒に来た方とは並んで映画を鑑賞することができます。

せっかく近所に映画館があるのに「家族で行っても子供と隣同士で座れないなら…」と来館を躊躇ってしまうという声が多く、コロナ禍でもお子様と一緒に映画館で映画をみる体験を味わってもらえるようにとユナイテッド・シネマ全体で企画しました。

今後もまだ先の見えない状況は続くでしょう。その中で私達にできることは安心して映画を楽しめる場所を提供し続けることだと思います。長期休業明けに地域の皆様が温かく迎えてくれたあの日の感動を忘れずに、これからもこの地で「遊園地としまえん」のように何十年も愛される場所としてありつづけることが今の目標です。

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